恋愛短編集
アリスは、男性をあまり知りません。
家に仕えているのは、レン以外には女性で、メイドばかりだからです。
舞踏会で見かけることはあっても、身分が低いため自分から話しかけることはできません。
それに父親とレンでは、自分が感じている気持ちが違うことくらいアリスにも分かっていました。
けれどアリスには具体的な違いは分かりません。
なので、特に意識はしていませんでした。
そんなある日、アリスはお父さんの書斎から、一冊の本を見つけました。
西洋の恋愛小説で、ヒロインの心理が詳しく書かれているのです。
アリス「 Love…恋愛…? 」
その言葉の意味が解らなくて、アリスは悩みました。
それでも答えは出なかったので、何度も、何度も、その小説を読み返しました。
すると、どうでしょう。
アリスは少しずつヒロインと自分を重ねられるようになり、"恋愛"と呼ばれる気持ちを解り始めていたのです。
アリス「 つまりは…特定の異性に向けた…ドキドキする気持ち…って所かしら?
その相手を、好きな人って呼ぶの?それなら… 」
レン「 ここに居たのですね、お嬢様。捜しましたよ。 」
アリス「 レン!? 」
微笑みながら来るレンに確かにアリスの鼓動は反応したのです。
きっと、これが"恋愛"なんだと解った瞬間、顔が赤く火照っていくのがわかり、エマは園庭に走り出しました。
レン「アリスお嬢様! 」
レンは、慌ててその後を追いました。
赤いバラの前まで来たとき、アリスはもう走れなくなってしまいました。
体力が、限界を告げ、足元も安定しなくなり、しゃがみ込むように座りました。
レン「 お嬢様、どうしたんです? 」
アリスはレンにすぐに追い付かれてしまったことが悔しく、何も言わないまま
わざと目を逸らしました。
レン「私から逃げられる訳ないじゃないですか。ああ、こんなに汗もかいて… 」
そっと差し出されたタオルを受け取りながら、アリスはレンをじっと見つめました。