鏡の中のドッペルゲンガー
「菫、どこいくの?」
化粧室に向かう途中で背中に声がかかる。
可愛いあなたのその声を聞くといじめたくなっちゃうのは昔から。
「別に?トイレ行くだけ」
遥は目の端を掻いて茶色の髪へ移動させた。
何を言いたいのかわかってる。あたしが不機嫌になったのをちゃんと知ってる。
そうやってあたしを見ててくれる限り、ほくろもろとも遥を愛していける。
「ごめんね?やきもち、妬いたでしょ」
あたしの大好きな、人よりちょっと厚い遥の柔らかな唇が孤を描いて笑った。遥らしくない生意気な笑い方。
「妬いてないよ」
「うそ、菫は嘘が最高にへた」
飲みすぎなんじゃない?そう言おうと思った。
その日は妙に色気があって可愛い遥らしくなかったから。それなのに――