雨夜の月に【密フェチSS】
1.
     

雨の夜、ふらりと現れた彼は、無言のままリビングのソファーに腰を下ろした。


傘もささずに歩いて来たのだろうか。


スーツのジャケットもスラックスの裾も色が変わるほど濡れている。


額に張り付いた髪が、彼の中性的な顔立ちを際立たせ、より魅力的にみせていた。



「風邪を引くわ」


わたしの声に彼が顔を上げると、艶やかな黒髪から雫が落ちた。


濡れている、何もかも。

そして、今夜、わたし達の関係が変わってしまうと直感する。


彼は差し出したタオルを受け取りもせず、わたしの手首を掴むと強引に自身の胸に引き寄せた。


冷たい。


彼の心が読めずに震えるわたしを一瞥すると、彼は耳元で甘く囁いた。


ただ一言「抱きたい」と。



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