雨夜の月に【密フェチSS】
1.
雨の夜、ふらりと現れた彼は、無言のままリビングのソファーに腰を下ろした。
傘もささずに歩いて来たのだろうか。
スーツのジャケットもスラックスの裾も色が変わるほど濡れている。
額に張り付いた髪が、彼の中性的な顔立ちを際立たせ、より魅力的にみせていた。
「風邪を引くわ」
わたしの声に彼が顔を上げると、艶やかな黒髪から雫が落ちた。
濡れている、何もかも。
そして、今夜、わたし達の関係が変わってしまうと直感する。
彼は差し出したタオルを受け取りもせず、わたしの手首を掴むと強引に自身の胸に引き寄せた。
冷たい。
彼の心が読めずに震えるわたしを一瞥すると、彼は耳元で甘く囁いた。
ただ一言「抱きたい」と。
< 1 / 4 >