夜はこれから
『ん? どうした?』
ほら、今は困った顔をしている。
心配して眉根は寄せられているに違いない。
「ごめん、ちょっと考えごとしてた」
『何を考えてんだよ』
「それは秘密」
『秘密って』
彼が苦笑する。
「それより今度の休み、どっか行こっか? お天気いいらしいよ」
『うーん、そうだなあ……』
今はきっと、私と過ごす週末のプランを頭の中で少し必死になりながら練っている。
私のためにどんなとびっきりの休日を用意してくれるんだろう。
どこに連れていってくれるんだろう。
当日までのお楽しみ。
けれど、彼任せにもしない。
いよいよ封切になったあのラブロマンス映画を彼と観て、人気のイタリアンの大好きなパスタを彼と食べて、ムードが盛りあがると話題になっているあのスポットに彼と行って――2人の時間を心行くまで楽しむ。
手をつないで。
恋人つなぎのように指を絡めながら。
そう、伝えるのだ。
私の口から。
さて、今夜は彼がうんざりするくらい長電話をしてやろう。
夜は、これからだ。
夜はこれから【完】