黒い翼
「出てけ」
強く突き放す、言葉だった。
「死んじゃうよ?」
「……いい」
僕は思いきり拳を作り、自分の爪で掌に傷を作る。
血がたくさん出るほどに。
血の匂いに敏感になっている彼女の前で、わざと。
「……………………」
案の定、彼女は反応した。
勢いよく上半身を起こす。
「君の体は欲しているのに?」
赤い双眼が僕を捉える。
正確には僕の手の、血を。
「……帰れ」
彼女は深く息を吐き、眉間にシワを寄せた。
そして僕に顔を背け、祈るように言う。
「どうしてそんなに飢えてるの」
「……………………………」
「まだ紫葵を忘れられないの?」
「……………………………」
「まだ好きなの?」
「っ」
彼女が何かを言おうとして僕を睨み、俯こうとする。
その一瞬を見逃さなかった。
「――エ…」
僕は掌にある血を口に含み、彼女の口にねじ込む。
もちろん、彼女が口を離さないように後頭部を押さえて。
抵抗しないように、空いた手で彼女を両手を掴んで。
ック、と喉を鳴らして、僕の血が彼女の体内へ入っていく。