黒い翼
その後は京と他愛もない話をして、俺らはそれぞれ教室に帰った。
…なんで俺ら別れたんだろう。
他の女子と喋るより京と喋った方が楽しいのに。
こんなこと想う俺は女々しいのだろうか。
それはいいとして、本当に喉が渇く。
「ぅあ――――――――――」
さっき飲んだのに、喉が渇いてたまらない俺は、別の場所で水を飲んでいる。
「見苦しいね」
「あ?」
困ったように見ているのは、瀬来なんとか。
フルネームは覚えていない(俺が高2の夏の時)。
「相変わらず先輩を敬うということを知らないんだね。普通なら僕を見てひれ伏すとこだけど」
「お前らの礼儀なんか興味ねえ」
俺は出っ放しの水を止めて、彼を見ずに言う。
「…そろそろそんなこと言っていられないと思うけど」
俺の中のヴァンパイアの因子のことを話しているらしい。
母が純血種に噛まれてそろそろ20年が経つ。
瀬来は母ではなく、俺がヴァンパイアになると思っているらしい。
可能性はあるが、俺は全否定している。
もちろん、不安が全くないワケじゃない。
毎日が恐怖だ。
明日起きると、俺はヴァンパイアになっているんじゃないか、と。
喉が異常に乾く最近なら尚更。
そんな俺を知っているのだろうか。
彼の目は、俺が絶対にヴァンパイアになると言っているようで、ひどく腹が立つ。
「俺はアンタに従うつもりなんてない」
俺がヴァンパイアなんて冗談じゃない。
防人に見つかりゃ殺されんじゃねえか。
「本能には勝てないと思うよ?」
「じゃぁ、俺がそうならなければいい話」
「そうも言ってられなくなると思うよ」
「…俺が〝堕ちる〟って言いてぇのかよ」
「口が悪いね。さっきからそう言ってるつもりだけど」
「俺はお前らみたいにはならねぇよ」
本来、ヴァンパイアは格上に従うらしい。
本能がそうなっているんだと。
つまりは、瀬来に従わなければならない。
そして俺は人間の血を啜って生きていかなければならないのだ。
「お前らみたいに人の生き血を吸う化け物になんて冗談じゃねぇ」
ノドが渇く。
「僕は望んで生まれてきたわけじゃないけど」
やけに周りがうるさい。
ザワザワと、まるで耳元で誰かが誰かと会話をしているよう。
ここには俺らしかいないはずなのに。
「君のことはどうでもいいんだけど、柊京を傷つけたり、追い詰めたりしたら許さないからね」
クスリと笑って瀬来が言った。
「は?」
なんで京が出てくるんだよ。
「…じゃぁお大事に」
そう言って瀬来はどこかへ行ってしまう。
って待てコラ。
こんな感じのやつ、少女漫画で読んだことあるぞ。
……パロディなのか?
ドッキリなのか?
これは俺が見ている悪い夢なのか?
頬を引っ張ってみると、痛かった。
「チッ」
…あぁ、ほんとイラつく。
俺が吸血鬼とかマジありえねぇ。