黒い翼
「ごめん、付き合えない」
だって好きじゃないから。
あたしがそう言うと、彼は少し悲しそうな顔をした。
ほんの少しだけ。
「……そっか」
「…………………」
それから沈黙があたし達を包みこんだ。
いつもなら、玉砕した男子が「うわぁぁああ」とか言いたげに走ってあたしの横を通り過ぎるんだけど。
この男は動こうとしない。
帰ってもいいのだろうか。
本読みたいんだけどな。
だけど、彼が醸し出している雰囲気は不思議なもので、あたしにここを動くなと言っているようだ。
だからあたしは彼が何か言うまでここにつっ立ている。
微妙な距離のまま動かないこの男女。
端から見たらさぞかし滑稽だろう。
なんて思いながら、長い沈黙を保っていた。
けど実際にはそんなに時間は経ってなかったのかもしれない。