嬌声フェロエヴト

 にやにやと頬が緩みそうになるのを感じながら、亨くんにわたしの好きな女性ボーカルの曲を勧める。

 以前アルバムを貸したことがあるから、どんな歌かは知ってるはず。

 逸る気持ちを抑えながら、声出るかなぁと不安そうな亨くんを宥めて半ば無理やりに曲を決定した。

 わたしの心臓が落ち着くのを待つはずもなく、前奏が流れ出す。

 亨くんはやっぱり心配そうにしていて、だけどそっと背中を押せば小さく頷いて歌い始めた。

 男の子にしては少し高めな亨くんの声は耳に馴染みやすい。

 流行のアップテンポな曲と歌声が上手く絡み合っていて思わず聞き惚れた。


「(…ああ…もうすぐっ…)」


 そうこうしている間に勢いに乗った音が洪水のようにどっと溢れて、最骨頂へ向かって走り出す。

 Aメロ、Bメロを越えて。

 サビに入る直前、今まで低めの音を奏で続けていた曲調が一変した。

 焦ったように見開かれた亨くんの双眸。

 タイミングを見計らって一気に突き上げる、高音域のサビ。

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