君の声がききたい
なんでこんなことになってんだ…

なんで付き合ってもねえ女のことで、沙和が不安になんなきゃいけないんだよ。


意味わかんねえ…



俺はイライラする気持ちを抑えて…沙和の手をぎゅっと握り、駅までの道を歩いた。

その間…俺たちに会話はなかったが、電車に乗った瞬間…俺は沙和に話しかけた。





――『どこで買い物すんの?』


沙和はパッと笑顔をつくり、俺に手話で返す。

この顔は気を使ってる顔だ…



――『駅前のスーパー!そこ安いから』

――『そっか』


俺は、苦手な作り笑いを沙和に見せた。


もう沙和に気を使わせなくない。

もう‥さっきみたいな不安な顔はさせられない…




ガコン…


すると…電車がカーブにさしかかり、大きく揺れた。

この時間は電車が混んでいる時間帯のため、沙和の背をドアにして、立って電車に乗っている俺たち。

俺は電車が揺れ、人が俺たちの方に体を持ってかれて、つぶれそうになる沙和を、体に力を入れて阻止する。しかし…



ぎゅ




沙和はそんな俺の力を緩めるように、俺の胸に顔をうずめ抱きついてきた。

俺と沙和はぴたりとくっつき、抱き合っているよう…


だけど、そんな沙和の行動は…俺に甘えたいというだけじゃなく…

不安な気持ちが大きいことに、俺はちゃんと気づいていた。



俺は沙和を抱きしめながら、沙和の髪をなでる…

そんなことをしていたら、最寄りの駅に着き、俺たちは手をつないで電車を降りた。
< 139 / 314 >

この作品をシェア

pagetop