HERO
「ねえ、わんこ」


「ん?」


「...ありがと」



私のその言葉で、わんこは抱きしめる力を弱めた。


そして、ゆっくりと私を自分から離す。



目が、合った。


ああ、キスするんだって思った。



のは私だけみたいで。



「もう一回言って」


「何を」


「今の、もう一回言って」


「何で」


「それで、これから頑張れるから」



絶対言ってやんない。


キスを期待した私が、ものすごく馬鹿みたいだ。



それでこれから頑張れる、そんな言葉にキュンとしたのも、馬鹿だ。



わんこのくせに。


私の心を、持っていきやがって。
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