HERO
ドアの向こうから、はーいって返事が聞こえて、ドアが開いてその人の姿が見えるまでが。


まるでスローモーションのようで。



その人の姿が見えたときには、私は何も考えられなくて。



頭の中が真っ白になるって、まさにこのこと。


わんこが隣にいてくれることさえ、忘れてしまうくらい。



お久しぶりですって頭を下げるわんこ。


その声を聞いて、ようやく隣にいたことを思い出して。



そのついでに、忘れようとしてたことを全部思い出した。



全部、忘れたかったのに。


全部忘れて、もう二度と会うこともないと思ってたのに。



「お母さん...」


そう呼ぶことすら、違和感を感じるぐらい。
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