あひるの恋
「此処、人が全然来ないんだ~」
先生はニコッと笑うと、其処に寝っ転がって、君もどう?と言わんばかりに見つめる。
「じゃ、遠慮なく。」
先生が寝っ転がった場所の隣に私も豪勢に寝っ転がると、植木の隙間から空が見えてなんとも美しい光景だった。
「眺め、最高でしょ?」
キラキラとした瞳で私の心を揺れ動かす。
美しい笑顔に見とれた。
「先生、御名前教えて下さい。」
「佐賀宮 郁」
佐賀宮先生は苦笑すると、立ち上がり手で服についた葉っぱを落とす。
「そろそろ帰ろうっか。」
そう言うと、まだ寝転んでいる私に手を差し伸べて来た。
優しい佐賀宮先生に一目惚れをした私は、差し伸べて下さった手に掴まり起き上がった。
「私、神崎あひるって言います。」
「あひるね…可愛い名前」
クスッと笑った佐賀宮先生は、何だか私を馬鹿にしているように見えた。
「ば、馬鹿にしてますよね…」
「何を根拠にそんなこと言うんですか?」
ドヤ顔の上から目線に負けた私は、はいはいと軽く流し。
「神崎さん、今日入学式サボった事はしーっですよ?」
あ、そう言えば入学式サボっちゃったんだ…。
やらかしたな~、担任の先生に入学早々サボってる最悪な生徒だと思われたかな…(笑)
「あ、神崎さん。ボタン、外れてるよ?」
私の腕を指差し、下に落ちているボタンを拾い上げれば、スーツの内ポケットから小さな裁縫道具を出して、
「ブレザー、脱いで貰ってもいい?」
と言うのでつい成り行きでブレザーを脱ぎ、お願いしますと渡せば、細くて長い器用な指先で針を丁寧に操っていく。
か、格好いい…。
なんて器用で素敵な先生何だろう。
「はい、出来上がり。」
両手で私にブレザーを手渡すと、うーんと背伸びしてから裁縫道具に針をしまい、此方を見た。
「有り難う御座います。器用なんですね。」
「だって僕、家庭科の先生だからね(笑)じゃぁ、また明日。」
ニコニコした顔で手を振る先生に、私の心を奪われた。