ハーフドライド
ハーフドライド
「濡れた髪って、いいよな」
普段そういう類のことをちっとも言わない幹人がぼんやり呟いた。
テレビドラマに映った女優はちょうど風呂上りでTシャツに下着姿で髪を拭いている。
あんまりびっくりしたわたしは「え?」なんて夕食のナポリタンをするするフォークから落として聞き返す。
「……や、そそるなって」
「幹人でもそうゆうのあるの?」
「あるって。一応男だから」
はにかんだように苦笑いして幹人は煙草に火をつけた。
キャスターなんて甘い煙草を吸ってる彼は無口な草食男。
別に外見がひ弱だとかそういうわけじゃない。色恋沙汰のいの字も見たことがなくって、どこまでも欲のない男だとわたしは思っている。
「ふーん、なんか以外」
「……おまえは俺をどうみてるわけ?」
「え、無欲でスカした親友?もしくはゲイ?」
最後のところで幹人は呆れたように頭を振ってとんとんと灰を皿に落とした。
「美帆ってさ、」
「なに?」
幹人はナポリタンに食いついているわたしを無感情に、けれどどこか温かく見つめていた。
一向にはずす気配のない咥え煙草と申し訳程度に添えられた指が彼に似合わず官能的で、不覚にも胸がざわつく。
(…幹人のくせにそんな目しないでよね)
彼は次の灰が落ちかかったところでふっとわたしから視線を逸らし、何事もなかったようにテレビ画面に戻った。「なんでもない」と静かに答えながら。
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