ハーフドライド
ナポリタンをすっかり胃袋に納めたあと、わたしは何も言わずにシャワーを浴びにいった。
ここで勘違いしてほしくないのは、幹人とわたしはそういう関係でそのためにシャワーを浴びにいったわけじゃ決してないってこと。
彼はただの同居人。家賃は安くなるし、寝起きだったり寝顔の間抜けな表情だったり、煙草の本数だったり、ちぐはぐな下着だったり、そういうのを気にしなくていられる楽な親友。
だから幹人は“男”ではない。だからさっきみたいに急に色気を放りだされるとこっちも困る。変な気を起こしたら、きっとわたしたちは今まで通り気楽にやってけない。
(…濡れ髪が好きなんだ)
幹人の以外な趣味を思い出して自然にバスルームの鏡にうつる濡れた自身の髪を見つめた。
じゃあ、なに?いままで何回も濡れた髪のままお風呂からあがってきたわたしを見て、幹人はなにかしら思うところがあったっていうわけ?
それともわたしのことなんか女とは欠片も認識してなくて、苦悶することなんて一度もなかったとか?
きっとそうよね。幹人に限ってありえない。あんな無欲な男は今まで生きてきてみたことないもの。
物欲、色欲、食欲、睡眠欲、どれをとっても突出しない。感情の起伏のあまりないニヒルな男。
いつも死んだ作家の本ばっかり目で追ってるけど、実際にその頭の中で何が起こってるかなんてわたしにはちっともわからない。
それでも一緒に居て落ち着くし楽だ。互いに互いを打ち消しあわない。きっと結婚する相手ってこういうのが合ってるんだってたまに考える。情熱を軸にぐるぐる回ってる恋人とするよりずっと楽かもしれないって。