微かな明り
「香野?残業か?」
私に気づいた課長の声に、鼓動が跳ね上がる。
「い、いえ、終わりました。城山課長…直帰の予定、では…?」
平静を装おうと頑張るけど、高鳴る鼓動で声がへんになりそう。
だって、いつもはきちんと綺麗に着こなしているスーツが、
今は違う。
ネクタイは緩めて、
シャツの釦は2つくらい開いている。
外の明りに、綺麗な鎖骨が少しだけ見える。
「ちょっと帰りがけに寄ったんだ」
「あ、忘れ物、ですか?」
「…そんなところだ」
少し、私から視線を外し、
また外の明りを見ながら答える。
「暗くないですか?電気、つけますね」
そう、スイッチに手を伸ばすと、
「いや、そのまま。あ、悪い。お前が嫌か」
「いえ、そんなことはないです」
薄暗い部屋は嫌じゃない。
かえってよかったかも。
これなら、課長を見る視線も、熱を帯びた私の表情も、
彼からは見えない。