Ｙシャツとネクタイと

Yシャツとネクタイと

「まだ残ってたの？」



背後からかけられた声に驚きながら振り返る。

そこには外回りから戻ってきた高橋さんがいた。


最近になって急に気温が上がって、連日、25度超えの日。

そんな中、ネクタイまできちんと締めて顧客企業を回るのは大変だろう。



「今やってる入力が終わりましたら帰ります。高橋さんは？」

「まだ帰れないよ。これから提案書作成し直さなきゃ」



言いながら高橋さんは自席に腰を下ろして、椅子の背に脱いだ背広をかける。



「まったく、こうも毎日暑いんじゃやってらんないよ」



おもむろにネクタイに手をかけて煩わしそうに緩めると、ワイシャツの第１ボタンを外す。

続けて、第２ボタン。

今度は袖口のボタンを外す。

そして、一気に肘までまくりあげる。

ほどよくついた筋肉がさらされる。



アウトドア派の高橋さんは、日曜になると仲間を集めてフットサルをするということを前に聞いたことがある。


暑いのはわかるけど、フロア内はクーラーだって効いているっていうのに。

なんだかなあ、もう。

目のやり場に困るじゃないか。



いたたまれず立ちあがると給湯室に向かう。


ふと、戸棚にある高橋さんがいつも使っている白いマグカップが目にとまる。

夏でもホットコーヒーを飲むことを知っている。


仕方ない。

帰ってきたばかりで疲れているんだし、淹れてあげるか。