ゲーム
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やばい。
そう思った時には遅かった。
ひんやりとした壁の冷たさが、指先から伝わってくる。
これ以上、後ずさりできそうにない。
じりじりとにじみよられて、壁際まで追い詰められてしまった。
左右は両の手でふさがれている。
どうしよう。
逃げ場はもうない。
目の前の彼は余裕のある眼差しを私に向ける。
と。
その薄い唇に意地悪そうな弧を描く。
ぞくり、と震えあがりそうになる。
ああ、そんな顔もたまらなく愛しい。
全身から好きっていう感情が溢れて止まらない。
でも……だめだ。
言わない。
絶対に言うものか、私からは。
「俺のこと、好きなんだろ? 好きって言えよ」
対峙する彼の目は、私をまっすぐに射抜く。
どちらも1歩も譲らない。
これは、言うか、言わせるかのゲームなんだから。
どれくらい、そうしていただろう。
ふうっ、と彼が短くため息をつく。
悩ましげに。
「あーもう」
ぐちゃぐちゃと前髪を無造作に掻きあげるその仕草。
ふつうなら嫌味にしかならないのに。
なんてさまになる人なんだろう。
「だったら、俺が言ってやるよ」
どくん、と大きく心臓が跳ねる。
一気に心拍数が上がっていく。
「俺は!」
苛立ちを抑えきれない様子で、彼は声を荒らげる。
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