伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
山辺さんは私を抱き締める。

力強い腕。


私は山辺さんの胸の中でわんわん泣いた。



「どうしてきみは、ただ一言、助けてと言えないんだ」

「………」

「こんなになっても強がって、どうしてだよ。辛いなら辛いって、ちゃんと言え」


涙は溢れ続ける。



「……助け、て……」


一度堰を切った言葉は止められなくて。

そしたらもう、決壊したみたいに弱さが口からいくつも漏れて。



「もうやだよ。死にたいよ。怖いよ。ひとりでいたくないよ。助けてよ、山辺さん」


山辺さんは私の背中をさすってくれた。



「大丈夫だから、もう泣かなくていい。俺に任せて」

「山辺さん……」


上着を脱ぎ、山辺さんは私に羽織らせてくれた。

山辺さんの匂いがする。



「ね? あんなやつは俺が死刑にしてあげるから」


人のいい笑みで言うから、どこまで本気なのかはわからないけれど。

私はもう考えないことにした。


それより今は早く、会社から出たかったから。


阿部課長はまだ私を探しているだろうか。

見つかったら今度こそどうなるかわからない。



先ほどのことがフラッシュバックしたように脳裏をかすめ、私はぐっと目を瞑ってまた山辺さんに抱き付いた。

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