伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
「お前たちはまだこんなところにたむろしていたのか。仕事をしろ」
階段をのぼってきたのは、経理課の倉持課長さんだった。
怖い顔に睨まれる。
「とか言って、倉持さんだって気になったから来たんでしょ」
沖野さんが笑う。
「俺は、会社に腐った林檎は不必要だと思ったから、お前たちに協力してやっただけだ。裁判沙汰になったら会社には不利益になるし、風評被害で売り上げも株価も落ちる」
山辺さんはにこやかに笑いながら、
「だからまぁ、それぞれ理由は色々だけど、ここにいるみんなで、辞表を手に抗議した」
「えぇ?!」
「美紀ちゃんの名前は伏せた上で、『会社がこれを許すなら、俺たちはこんな会社では働きたくありません』ってね。そしたら朝イチで重役級の会議があって、あっさり阿部課長の解雇が決まった」
「……そんな、無茶な……」
「無茶じゃない。勝てる喧嘩だから勝負に出た。そうじゃなきゃ、さすがにみんな、そこまでしないだろ?」
「………」
「俺たちは、ダテに会社で椅子に座ってるわけじゃない。倉持課長を筆頭に、宮根くんも、篠原も、沖野くんも。俺だって、それなりに会社には嘱望されていると自負してる」
力が抜けた。
私ひとりのために、こんなにも多くの人に迷惑を掛けてしまった。
なのに、みんなして、屁ともないような顔をしているんだから。
「まぁ、山辺さんに大きな貸しを作れたと思えばいい話ですし」
沖野さんは言う。
「山辺さんがここにいる人たちに頭を下げたんだ。『俺の大事な子を助けてあげてくれ』って。だから協力しない手はないでしょ」
「それは言わない約束だったのに。嫌味だね、沖野くんは。個人的恨みでわざと言ったなら、勘弁願いたいものだ」
「俺を個人的に恨んでるのはあんたの方だと思いますけどね。俺は別にあんたなんかどうでもいいんだ。それなのに、わざわざそういう話を引っ張り出して来て」
「あれ? 怒ってる? 何だかんだ言って、ほんとは余裕ないんじゃないの、沖野くん」
不穏な空気になってきた。
山辺さんは、宮根さんとだけじゃなく、この沖野さんとも仲が悪いらしい。
階段をのぼってきたのは、経理課の倉持課長さんだった。
怖い顔に睨まれる。
「とか言って、倉持さんだって気になったから来たんでしょ」
沖野さんが笑う。
「俺は、会社に腐った林檎は不必要だと思ったから、お前たちに協力してやっただけだ。裁判沙汰になったら会社には不利益になるし、風評被害で売り上げも株価も落ちる」
山辺さんはにこやかに笑いながら、
「だからまぁ、それぞれ理由は色々だけど、ここにいるみんなで、辞表を手に抗議した」
「えぇ?!」
「美紀ちゃんの名前は伏せた上で、『会社がこれを許すなら、俺たちはこんな会社では働きたくありません』ってね。そしたら朝イチで重役級の会議があって、あっさり阿部課長の解雇が決まった」
「……そんな、無茶な……」
「無茶じゃない。勝てる喧嘩だから勝負に出た。そうじゃなきゃ、さすがにみんな、そこまでしないだろ?」
「………」
「俺たちは、ダテに会社で椅子に座ってるわけじゃない。倉持課長を筆頭に、宮根くんも、篠原も、沖野くんも。俺だって、それなりに会社には嘱望されていると自負してる」
力が抜けた。
私ひとりのために、こんなにも多くの人に迷惑を掛けてしまった。
なのに、みんなして、屁ともないような顔をしているんだから。
「まぁ、山辺さんに大きな貸しを作れたと思えばいい話ですし」
沖野さんは言う。
「山辺さんがここにいる人たちに頭を下げたんだ。『俺の大事な子を助けてあげてくれ』って。だから協力しない手はないでしょ」
「それは言わない約束だったのに。嫌味だね、沖野くんは。個人的恨みでわざと言ったなら、勘弁願いたいものだ」
「俺を個人的に恨んでるのはあんたの方だと思いますけどね。俺は別にあんたなんかどうでもいいんだ。それなのに、わざわざそういう話を引っ張り出して来て」
「あれ? 怒ってる? 何だかんだ言って、ほんとは余裕ないんじゃないの、沖野くん」
不穏な空気になってきた。
山辺さんは、宮根さんとだけじゃなく、この沖野さんとも仲が悪いらしい。