伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
沖野さんの肩を引いた宮根さんは、山辺さんに噛み付く勢いで、



「さっきから黙って聞いてれば、ほんとにあんたしつこいな。その喧嘩の続きなら、俺が代わりに買うよ」


だけども沖野さんがそれを制す。



「いやもう、引っ込んでてくださいよ、宮根さん。あんたが出てくるといつもいつも話が面倒になる」

「はぁ? 沖野さんこそ引っ込んでてよ。俺は一言この人に言わなきゃ気が済まない」

「でも今は俺が話してるんです。あんたはいつもそうだ。いちいち首を突っ込んでくる。親友だか何だか知りませんけど、しゃしゃり出てこないでいただきたい」

「何? 俺としのちゃんのこと、妬いてるの?」

「くだらない。どこかの元カレじゃないんだから、あんたみたいな脳内お子様レベルの人に嫉妬も何もないですよ」

「お子様って俺のこと?!」


今度はなぜか、沖野さんと宮根さんの喧嘩が始まる。

私は状況も忘れて笑いそうになってしまった。


倉持課長はにやにやしながら、



「大変だなぁ、篠原」

「倉持さん。ご存じでしたなら、みなまで言わないでください」


つまりどういうことだろうかと私は考える。


話の流れから察するに、宮根さんと篠原さんは親友で、篠原さんと沖野さんが付き合ってて。

じゃあ、『元カレ』っていうのは、



「まぁ、過去は過去で変えられないけど、終わったことだしいいじゃない。ね? 篠原」


山辺さんは篠原さんと付き合っていたのか。

お似合いだなと、私は他人事のように思ってしまう。


篠原さんは肩をすくめ、



「大事にしてあげなさいよ、北澤さんのこと。今度は同じ失敗を繰り返さないようにね」

「そうだね。でも篠原にだけは言われたくない」


篠原さんはそんな山辺さんの言葉を無視し、



「ほら、行くよ、沖野くん。宮根も。本橋ちゃんもいつまでも泣かないの」
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