伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
私ははっとして、慌てて頭を下げた。



「あの! ありがとうございました!」


篠原さんは笑みを返すだけで、それぞれを引きずっていく。

倉持課長もそれに続くように去っていった。


山辺さんは困ったように笑い、



「本当に騒がしい。おかげですべて知られてしまった。まぁ、どのみちいつかは知られるだろうことだからいいけど」


肩をすくめる。



「でも、これで解決だ。美紀ちゃんの『ダメ』の理由もなくなったと思うし、これからちゃんと俺のこと考えてよ」

「……え?」

「言っただろ? 俺はきみのことが好きだって」


赤面しながら、内心、パニックになりそうだった。

あんなことがあったのに、一夜明けたらこんなことになってて、おまけに山辺さんに告白されて。



「元カノがあの篠原さんだなんて、私が太刀打ちできるはずないでしょ」

「何を太刀打ちする必要があるの? 篠原はあの通り、今は沖野くんを選んでるわけだし。第一、俺は今、美紀ちゃんがいいと思ってるんだからいいじゃない」

「でも何で私なのかわかんない」

「美紀ちゃんといると、俺は俺らしくいられる。このままでいいんだと思える。そういう美紀ちゃんだからいいと思ったんだけど、ダメかな」


爽やかさの中に、ちょっと照れを含んでいるような笑み。

私は息を吐いた。



「私と付き合ったら苦労するよ、山辺さん」

「それはまた、飽きさせない台詞だね。おかげで楽しみが増えたよ」


あっけらかんとして言われると、考えることすら馬鹿馬鹿しく思えてきて。
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