伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
「篠原さん。俺の頼んでたやつはどうなりました?」

「ごめん。そっちも急いでるんだけど、あと1時間ちょうだい」

「いや、いいですよ。明日までにもらえれば間に合いますから」

「でも急ぐよ。早い方がいいでしょ?」


山辺はふたりを見やる。


社内では本当にさっぱりした関係の篠原と沖野。

プライベートはどんな風なのか、まるで想像ができない。



「大変そうだね。お互いに忙しすぎて、仕事に潰されなきゃいいけど」


山辺は老婆心で言ったつもりだった。

なのに、篠原は口を尖らせ、



「山辺くんに心配されたら、嫌味にしか聞こえないんだけど」

「そういうつもりじゃないよ」

「ほんっと、黙ってればいいのに、いつも一言余計よね。そういうところが昔から嫌だったの」

「それは初耳だな。言ってくれればよかったのに」

「ほら、またそうやって人を不快にさせるようなことを言うでしょ」


篠原が過剰に反応するからこそ、山辺は応酬してしまうのだ。

空気が悪くなった時、「やめなさい」と、沖野が努めて冷静に割って入った。



「あんたもういいから仕事に戻りなさいよ。いちいち相手する必要ないでしょ」

「でも!」

「いいから。さっさと終わらせたら、飲みに行く時間が取れるでしょうが。今晩は付き合いますから」


沖野の言葉に、しぶしぶといった様子だが、納得する篠原。

決して上からではなく、でも篠原を黙らせることのできる沖野に対し、山辺はやはりすごいと思った。


篠原は山辺にベーッと舌を出し、企画課フロアを出て行く。



「仲がいいんだね。素直に羨ましく思うよ」

「別に普通です」


感情を出さない沖野は平坦にしか言わない。

山辺は苦笑いで肩をすくめた。
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