伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
新人研修を終え、経理課に配属されて、早二ヶ月。
「東村さん! あなたどうしてこんな簡単なこともわからないの!」
私の教育係でもある課のお局さま・岸先輩に、毎日のようにガミガミと言われる日々。
自慢じゃないけど、私は昔から何をやっても人よりトロくて、おまけに鈍臭いから、怒られることには慣れている。
慣れてはいるけど、でも、ここまで四六時中だと、さすがにそろそろ限界だ。
何の奇跡なのか、こんなにいい会社に就職できたけど、私は早くも辞めたくてたまらなかった。
高校・大学と、商業科で学んできたけれど、そもそも私は簿記が苦手だし。
つまりは向いてないんだよ、私には。
「すいませんでした」
「まったく。泣いてる暇があったら少しでも仕事を覚えなさいよ、あなた」
「はい」
「大体ねぇ、他の課の新人さんたちは、もう自分の仕事を与えられ始めてる頃だというのに、あなたはまだこんなことをやってて」
「………」
「あなたを教えている立場の私まで一緒に怒られるのよ。わかっているのかしら。本当に、こっちも疲れるわよ」
そんなに怒鳴るから疲れるんですよ。
なんて、怒鳴られてる私が言える立場じゃないけれど。
私は小さくなりながらまた、「すいませんでした」と、鼻をすすりながら言った。
もうやだ。
本当にやだ。
私は私なりに一生懸命やってるのに、なのにどうして人並みに書類ひとつまともに完成させられないのだろう。
「岸さん。もうその辺でいいだろう。お説教ばかりがいいというわけでもないのだし」
「課長……」
岸先輩は、いきなり委縮した。