伊坂商事株式会社~社内恋愛録~


待ちに待った、お昼休憩。

社食の混雑に耐えられず、だからって外まで食べに出る気力さえない私は、だからいつもひとりでお弁当だ。


みんがが出払った経理課で、のびのびとご飯を食べることだけが、今の私の、会社内で唯一の至福の時。



「んー、我ながら美味しい」


この出し巻き卵の絶妙なふわふわ感が最高っていうか。

毎朝5時に起きて作ってるけど、全然苦にならない。



「何だ、東村は弁当か」

「わひゃっ!」


振り向くと、倉持課長が私のお弁当箱を物珍しそうに覗き込んでいた。

いや、それよりも、今のひとり言、聞かれたかもしれない。



「かかか、課長。どう、どうしたんですか。おひ、お昼なのに」

「うん? 月末も近いだろう? 仕事が溜まっているんでな。昼だろうと俺には関係ないんだ」


最悪だ。


私の唯一の癒しの時間なのに、倉持課長が戻ってくるなんて。

だからって、今から場所を移動したら変に思われるし、でもこんな人と同じ空気を吸いながらご飯を食べたくはないし。



「それより、美味そうだな、それ。自分で作っているのか?」

「あ、はい」

「すごいな。社内でそんなやつは初めてだ」

「えぇ?! うちの会社ってお弁当禁止だったんですか?!」

「いや、そういう意味ではない。と、いうか、弁当禁止の会社なんてないだろう」

「で、ですよね」

「みんな安くて手軽な社食に行きたがるから弁当持参するやつなんてほとんどいないし、俺は初めて見たという意味だったんだが。おもしろいことを言うんだな、東村は」


あぁ、ほんと馬鹿だ、私は。

倉持課長には鼻で笑われたような感じだし。


私は、恥ずかしくて、穴があったら入りたいとさえ思った。
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