伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
仕事があるならさっさとデスクに戻ればいいのに。

なのに、倉持課長は、ここから動こうとする気配がなくて。


おかげで私はご飯を食べられない。



「あの、まだ何か?」

「いや、手の込んだ弁当だと思って、感心して見ていたんだ」

「はぁ」

「東村にはそういう才能があったんだな」


どうせ私は経理の仕事の才能はないですよ。

心の中で毒づきながらも、ちょっと悲しくなってしまった。


これは暗に、倉持課長の嫌味なのだろうなと邪推する。



「弁当か。昼にそういう選択肢があったことすら気付かなかった」

「だったら課長もカノジョか奥さんに作ってもらえばいいじゃないですか」

「それもいいかもしれないな。まぁ、そういうのがいたら、の話だが」


でしょうね。

とは、言わないでおく。


こんな怖い顔した人のカノジョや奥さんになりたがる人がいたら、逆に見てみたいとすら思う。



それでもまだ倉持課長は立ち去ってはくれないから、仕方なく私は、さらに話題を探す羽目に。



「課長っておいくつですか?」

「34だが。それが何か?」

「いえ、別に」

「その年でまだ結婚してないのか、なんて思ったんだろう?」


ぎくり。

顔に出ていたのかもしれない。



「すすす、すいません。もう二度とそんなこと思ったりしませんから。許してください」


焦って言ったら、倉持課長はちょっと笑いながら、「東村は本当におもしろいんだな」と言った。

怒られなくてよかったと、私は内心ほっとした。

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