伊坂商事株式会社~社内恋愛録~


「何であなたまだこんなことしてるの! 信じられない! もういいわ! 続きは私がやっておくから、あなたちょっとこれを営業課まで届けてきなさい!」


岸先輩の怒鳴り声が、まだ鼓膜の奥に残ってる。


言葉ひとつひつつが棘となって、役立たずな私を突き刺してくる。

いや、ただ単に、岸先輩はろくに仕事もできない私を嫌っているだけなのかも。



落ち込みながらとぼとぼと歩いていたら、



「きゃっ!」


ドンッ、と誰かにぶつかった。

相手はか細い悲鳴を上げ、持っていたたくさんのファイルや紙の束を廊下にぶちまけた。



「いったーい!」

「す、すいません。ごめんなさい」


相手は、その場で膝をついて、足首の辺りをさすっていた。

だから私も慌ててしゃがみ込む。



「大丈夫ですか?!」

「いいの。私の方こそごめんね。考え事しながら歩いてたから。それよりあなたの方こそ大丈夫? 怪我はない?」

「あ、はい」


私よりあなたの方が大変そうじゃないですか。

足元に散乱したたくさんの書類らしきものを、相手はひとつひとつ拾い集めながら、



「本当にごめんなさいね」


優しい人がいるものだ。

普段、私が接する女性社員といえば、岸先輩だけだから、たまに他の女の人を見ると、こうも違うものなのかと思わされて。



「うわっ! 班長、何やってるんですか!」

「あ、沖野くん。ちょうどいいところに来てくれたわね。ぶつかっちゃって。これ集めるの手伝って」

「ほんと鈍臭いなぁ、あんた。だからこんなに持つなっていつも言ってるのに。そもそも、そんな高いヒール穿いてるから大惨事になるんでしょうが」

「ちょっと、それ上司に向かって言う台詞? 悪口じゃないの」

「何でですか。俺はあんたの心配してるんでしょ」
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