伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
私の所為で喧嘩させてしまった。

でも、その反面で、上司と部下なのにここまで言い合えるってすごいと思った。


私はきっと、どんなに頑張ったってこの女の人のようにはなれないだろうから。



「足、痛いんですか?」

「平気。ひねってないみたいし」

「ならいいですけど。あんたこれからはもうちょっと気をつけなさいよ。ほんと、俺が見てないとダメなんだから」


心配してくれる人がいるっていいな。

経理課にもこんな優しい人たちがいてくれたらよかったのに。


そう思ったら、不意に涙が溢れてきて、



「って、何? え? どうして泣いてるの? ちょっと、どこか痛い?」


私は首を横に振る。


違うんです、そうじゃないんです。

と、言いたくて、でも上手く言葉が出ない。



「あーあ、もう。泣かせちゃって。班長がぶつかるから」


ぼやく男の人を無視した女の人は、しきりに私の心配をしながら、



「あなた、どこの課の子? 大丈夫? 病院行く?」

「だい、大丈夫、です」


私は涙を拭う。

これ以上、関係ないこの人に迷惑はかけられない。



「企画課に何か用があった? 何なら、私が言付かるわよ?」

「え? ここって営業課のフロアじゃないんですか?!」

「営業課ならこの上の階だけど。5階はすべて企画課のフロアよ?」

「……そん、な……」


ここじゃなかったの?



ぶつかってしまった上に、こんなことになってしまって。

でもそれのそもそもの原因は、私が階を間違えたから。


どこまで馬鹿なんだ、私は。
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