伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
泣かないと決めたはいいけど、実際、それはかなり難しいことだった。
「あなたこんなものにどうやったら2時間も費やせるのよ! 効率が悪いのよ、あなた! それで残業して手当てをもらうなんて会社の不利益になるばかりよ、まったく!」
「すいません」
もはやこれはお小言おばさんとかいうレベルじゃない。
岸先輩の唾を浴びながら、私は肩を震わせた。
それでも唇を噛み締めながらこらえる。
「が、頑張りますから」
「頑張る、頑張る、って、みんな頑張ってるわよ! 頑張らない人は会社にはいらないわよ!」
「はい」
いつもならこの辺りで終わるはずだった。
でも、今日はなぜか違ったらしく、
「もういい加減、言わせてもらうけど。あなたが経理課に来て四ヶ月よね? 入社してからで言っても、とっくに半年過ぎてるわよね?」
「え? あ、はい」
「あなた、辞めた方がいいんじゃないの?」
「……え?」
「まず、仕事が遅いでしょ。その所為でまわりにしわ寄せが来るの。だからあなたはコピーや届け物ばかり。それなのにお給料は私たちと同じ」
「………」
「その程度のことなら、その辺の高校生にでも任せた方がよっぽどいいわよ。だってあなたがやってるのは、学業の片手間でできるアルバイトと同じレベルじゃない」
「………」
「私ももう、こうやって何度も何度も同じことを言うことに疲れたの。あなたいつまで経っても成長しないじゃない。おかげで私の風当たりだってきついのよ」
「………」
「だから私としては、あなたなんて辞めてくれた方がいいと思ってる。若いんだから再就職も簡単だし、それが無理でもお手軽に結婚に逃げればいいでしょ」
鈍器で殴られたかのようだった。
ショックすぎて、逆に涙も出やしない。
岸先輩の大きなため息を浴びながら、私は膝から崩れ落ちてしまいそうになった。