伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
胃の辺りをさする。
倉持課長に話したら、少しは楽になった気がするけれど、でもやっぱり会社にいるだけで常に胃痛がひどくて。
倉持課長は少しの間を置いて息を吐き、私の隣の席に腰を下ろすと、
「うちの実家には犬がいてな。昔、妹が拾ってきて、今はもう死んでしまったんだが」
唐突に、関係のない話が始まった。
「東村がこの課に来た時、その犬にそっくりだと思った」
「はい?」
「名前はモモ。妹がつけたんだが。東村も『桃』という名前だろう?」
「そうですけど……」
「何だかおもしろいと思わないか?」
私は曖昧にしか笑えない。
ほんとは何が『おもしろい』のかわからないけれど、でもそう言ったら倉持課長を怒らせてしまうかもしれないから。
この脈絡のない話はいつまで続くのだろうかと思った。
「あの、課長」
「うん?」
「課長の犬のお話はわかりました。ですけど、そのお話の着地点はどこでしょうか」
すごく、すごーく、思いきって聞いてみた。
倉持課長は「あぁ」と言った後、
「俺と結婚しないか? というところに繋がる予定だったんだが」
「……はい?」
意味がわからなかった。
まったくもって理解が及ばなくて、もしかして私は何か聞き間違えたんじゃないかとすら思ったのだけれど、
「東村が本気で辞めたいと思ったのなら、仕方がない。が、それはそれで寂しいものがある」
「………」
「そこで俺なりに考えてみたんだが。東村はモモに似ているし、料理も上手い。これを逃すべきではないと思った」
倉持課長に話したら、少しは楽になった気がするけれど、でもやっぱり会社にいるだけで常に胃痛がひどくて。
倉持課長は少しの間を置いて息を吐き、私の隣の席に腰を下ろすと、
「うちの実家には犬がいてな。昔、妹が拾ってきて、今はもう死んでしまったんだが」
唐突に、関係のない話が始まった。
「東村がこの課に来た時、その犬にそっくりだと思った」
「はい?」
「名前はモモ。妹がつけたんだが。東村も『桃』という名前だろう?」
「そうですけど……」
「何だかおもしろいと思わないか?」
私は曖昧にしか笑えない。
ほんとは何が『おもしろい』のかわからないけれど、でもそう言ったら倉持課長を怒らせてしまうかもしれないから。
この脈絡のない話はいつまで続くのだろうかと思った。
「あの、課長」
「うん?」
「課長の犬のお話はわかりました。ですけど、そのお話の着地点はどこでしょうか」
すごく、すごーく、思いきって聞いてみた。
倉持課長は「あぁ」と言った後、
「俺と結婚しないか? というところに繋がる予定だったんだが」
「……はい?」
意味がわからなかった。
まったくもって理解が及ばなくて、もしかして私は何か聞き間違えたんじゃないかとすら思ったのだけれど、
「東村が本気で辞めたいと思ったのなら、仕方がない。が、それはそれで寂しいものがある」
「………」
「そこで俺なりに考えてみたんだが。東村はモモに似ているし、料理も上手い。これを逃すべきではないと思った」