伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
「すいません。突飛すぎて何が何だか。課長は私をからかおうとしているだけですよね?」


絶対そうだ。

そうじゃなきゃおかしい。


なのに、真顔のままの倉持課長は、



「俺は冗談でプロポーズをするような人間ではない」


目眩がした。



「ちょっと待ってください、課長。私たちはまず、お付き合いすらしていませんよね?」

「あぁ」

「っていうか、あんまり話したこともないですよね?」

「あぁ」

「それなのに、本気でそういうことを言っている、と?」

「何がおかしいのかわからない」

「おかしいですよ、そんなの」

「じゃあ、これから結婚を前提に付き合って、色々と話せばいいじゃないか。それなら解決するだろう?」


いや、それはそうなのかもしれないけれど。

でも、何かもう、それならそれでいいのかもしれないとすら思えてきた自分がいるから怖い。



「正直なことを言うと、俺も東村はあまりこの仕事には向いてないと思うんだ。と、いうか、働くこと自体が向いてないと言うべきか」

「なっ」

「それより東村は、好きな料理を作ったり、子供の相手をしたりという毎日の方が合っている気がするんだ」

「……確かにお料理も子供も好きですけど」

「そうだろう? 絶対、いい主婦になると俺は思う」


そういう自分を想像してみる。


朝、旦那様を送り出して、子供と公園まで散歩して、パンケーキを焼いて、特売品のお肉が買えたことに喜んで。

三年後に自分がまだこの会社で働いている姿よりも、それはずっとクリアに目に浮かんだから驚いた。



「返事は?」

「え? あ、はい」


と、思わず言ってしまったら、
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