伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
やっぱりだ。


沖野くんは私の意思ばかり優先させる。

これじゃあ、ただ沖野くんは、私の我が儘に付き合ってくれているだけみたいじゃない。



「俺は別に、結婚したからってあんたに仕事を辞めろと言うつもりはないですよ。でも、その上でもやっぱり結婚は嫌だと言うなら、無理強いすることじゃない」

「だから、そうじゃないの! 違うの!」


大きな声が出た。

私はやりきれない気持ちになる。



「沖野くんの言ってることはわかってる。でも、だからこそダメなの」

「何がですか」

「考えてみてよ。私たちは同じ部署にいるのよ? でも、結婚したらそういうわけにはいかなくなる」

「まぁ、そうでしょうね」

「どちらかが移動させられるのが常よ。大体は女性の方」

「つまりあんたは、今の『班長』という地位を捨てたくはない、と」

「何でそうなるのよ。いや、確かにそれもあるけど。でも、沖野くんと一緒じゃなきゃ、私は頑張れないの。それなのにどちらかが違う部署になんて」


支離滅裂だ。

おまけに最後の方は、泣きごとじみている。


私は唇を噛み締めた。



「わかったから泣かなくていい」


引き寄せられた。

まばたきしたら、目の淵にあった涙の一粒がこぼれた。



「俺が悪かったです。俺も少し、焦ってたのかもしれない」

「………」

「あんたは放っておくと無茶ばかりで、ろくに食事もしないから。そういうの、見てられないし。せめて一緒に暮らせたらとは思いましたが、いい年して同棲というのもおかしいし」

「………」

「だったらもう、手っ取り早く結婚した方がいいかと思っただけで。あんたの気持ちを考えてなかった。その上、棘のある言い方をしてしまった。だから俺の方が悪かったです」
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