伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
私は沖野くんに、こんなにも想われていたのだと知った。

そしたらまた別の涙が込み上げてきた。



「泣かないでください。あんたに泣かれると、どうしていいのかわからない」

「だって」

「さっきも言ったように、俺自身は結婚なんてどっちでもいいんです。形だけのようにしか思えない。だから、しないならしないでいい」

「………」

「俺はどんな形であれ、あんたの一番近くにいられるなら、それいいんですよ」


涙が止まらない。


それは、好きや愛してるより、ずっと胸に響く言葉で。

こんな人に愛されている自分が、ひどく幸せに思える。



「ありがとう」


私は涙を拭った。


沖野くんは笑う。

だから私も、泣き笑い顔になった。



「でも、少し驚きました。まさかあんたが、いつかは俺と結婚したいと思ってたなんて」

「なっ! そ、それは……。っていうか、そっちこそ!」


赤くなる私を見て、また沖野くんは笑う。



「ねぇ。それよりすごく根本的なことを聞きたいんだけど。私たちってそもそも、付き合ってるの?」

「さぁ? どうなんですかねぇ」

「……何それ」

「でも、知ってます? 経理課の倉持課長、今度結婚するらしいんですけど。付き合ってもいなかった同じ課の子にいきなりプロポーズしたらしいですよ」

「うそっ! っていうか、え? あの、経理の鬼でしょ? ほんとに? しかも、何? 付き合ってないのにプロポーズ?!」

「覚えてません? 前にあんたがぶつかって泣かせた子ですよ、相手」

「えぇ?!」

「まぁ、当事者がどう思ってそんなことになったかは知りませんけど。それよりはマシでしょ、あんたと俺は」


うなづいた後で、上手く言いくるめられたのかもしれないと思った。

沖野くんは相変わらず笑っていた。

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