伊坂商事株式会社~社内恋愛録~


「たまにはふたりで飲もうじゃないか」


そう、課長に誘われたのは、終業時間より少し前のことだった。

今まで何度もあったわけじゃないから、私は少し緊張した。


おまけに、食事の場所として、わざわざ個室が選ばれていたと知った時には、一体何なのかと思った。



「まぁ、そう緊張するなよ。ほら、飲め」


課長にお酌されてしまった。

私は「すいません」と頭を下げる。



「あの。何かお話があるんでしたら、もったいぶらないでください」

「相変わらずせっかちだなぁ、篠原は。せっかくの酒が楽しめないじゃないか」


課長は瓶ビールを置いた。



「と、いっても、俺もどう切り出すべきなのかと思っていたし、もう単刀直入に言うことにする」

「はい」

「実は来年度から新しい部署ができることになって。マーケティング室というところなんだが。詳しい説明はこれを読んでもらえればわかると思う」


課長にファイルを渡された。

極秘扱いらしい、新部署の概要が、こと細かく書かれている。



「マーケティング室ですか」

「そうだ。それで、だ。そこの室長を、篠原がやらないかという話なんだが」

「はい?!」


顔を上げた。

課長はビールをちびちびと飲みながら、



「5,6人で構成する予定でな。小さな部署なんだが。室長は誰にするべきかと、社内の色々な人材が会議に掛けられたが、総合的に見て、篠原でいこうという話で進んでいて」

「えぇ?!」

「若い社員の敏感なアンテナに頼ると言ったら古臭い言い方かもしれないが。とにかくそういう人間を集める予定なので、そうなってくると、若い社員に人望が厚く、かつ、まとめられるのは篠原だろう、と」

「いやいやいや。ちょっと待ってください、課長」
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