伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
クビを宣告されるようなことはないだろうとは思っていたけれど、でもまさか、新部署の室長に私が、って。

驚き過ぎて、未だ頭の中を整理できない。


課長はまたぐびっとビールを飲む。



「何だ? 篠原はずっと企画課にいたいか? 新しいところには飛び込めない、と?」

「そういうわけじゃないですけど。どうして私なのかとか、色々と」

「篠原ならやれるだろうという上の判断だ。もちろん、俺も含めてのな」


『上』と言われたら、会社命令に等しく思えてしまう。

想像したって不安しか浮かんでこないのに。



「まぁ、いきなりこんなことを言われたところで、篠原が戸惑う気持ちもわかるしな。じっくり考えてくれればいい」


でも、何が一番不安かと言われれば、それは沖野くんがいないことだ。

ただ私が依存しすぎているだけなのかもしれないけれど。


それでも、沖野くんがいてくれたから、今まで私は班長としてやってこられたという自覚はある。


なのに、今度は私ひとりで、しかも新部署の室長に?

はっきり言って身に余るし、正直やっていける自信がない。



「あの、課長」


言い掛けた私を遮った課長は、



「なぁ、篠原。ここからは、俺が個人的に思っていることとして聞いてほしいんだが」


前置きのようにそう言い、残りのビールを一気に流し込んだ。

そして課長は再び私に目をやり、



「実は俺は、あと1,2年のうちに上に行くことが決まっているんだ。そこで、そろそろ次の課長候補をと考えている」

「あ、はい」

「これは今初めて人に話すことだが。俺としては、それを沖野にと考えているんだ」

「え?」


沖野くんが、次の課長候補?

驚きもここまでくれば、もう何が何だかわからない。
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