伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
セックス後の気だるさを残す体をベッドに横たえ、隣で煙草を吸う石島 瑛太に目をやった。
瑛太と私は同期で、新人研修の時に仲よくなって以来、もう一年近くこんな関係を続けている。
『こんな関係』とは、付き合ってもいないのにセックスをする関係、という意味。
私と瑛太は、気が向いた時にだけ体を重ねる、セフレでしかない。
「俺らもついに先輩になっちゃったよなぁ。去年の今頃はそんなこと想像もできないくらいに大変だったけど」
「そうね」
「あ、新人で可愛い子いた? いたら俺に教えろよ」
無邪気に言う瑛太。
人の気も知らないで。
私は瑛太のことが好きなのに、なのに瑛太は多分、そんなこと微塵も思っていないと思う。
「じゃあ、可愛い子紹介してあげるから、その代わり、私に山辺さんを紹介してよ」
「うわー。お前まで山辺さんの信者かよ。ミーハーだねぇ」
「いいじゃない。かっこいいし、爽やかだし、仕事できるし、将来有望だし。どこかの誰かさんとは大違いでしょ」
「はいはい、そうですね」
嫌味を軽く受け流し、瑛太は煙草を消した。
そして倒れ込むようにベッドに大の字になり、
「でも、残念ながら、山辺さんは無理だ」
「どうして? 瑛太は山辺さんと同じ企画課じゃない」
「同じ企画課でも、俺は原口班だもん。企画課は、よほど仲よくなきゃ、違う班の連中とは口も利かないのが暗黙のルールみたいなとこあるし」
「何それ」
「っていうか、もし仮に俺が山辺さんを紹介できたとしても、お前じゃ無理だよ。あんなモテる人が、どこぞの一社員のお前を気に掛けるわけがないだろ」
「どうせ私はブスでデブよ」
「そういう意味じゃないけど。でもまぁ、お前くらいのレベルのやつは、うちの会社にはいくらでもいるし、山辺さんなんて高嶺の花ってことだ」
別に本当は、山辺さんなんてどうでもいいのに。
なのに、こうもあっけらかんとして言われると、瑛太を試した自分の方が墓穴を掘る結果にしかならなくて。