伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
「失礼しちゃう。私だって今は作らないだけで、その気になればカレシのひとりやふたりくらい、簡単よ」

「へぇ。それは、それは」

「馬鹿にして! 私にカレシができたら、瑛太どうするの?」

「そりゃあ、もちろん祝福してやるさ。なんたって、同期の桜のめでたい話なんだから、応援するよ。そしたらこの関係だって終わりにするし」


さらりと言っちゃって。

瑛太にとって私は、その程度でしかないのだろうか。



「何? マリ、カレシ作る気になったんだ?」

「そ、そうね。そろそろ仕事にも余裕持てるようになったし、いつまでも瑛太とだらだら関係を持ちたくもないし」


勢いで言ってしまったけれど。

瑛太は「ふうん」としか言わない。


だから余計、焦ってしまって、



「え、瑛太だってカノジョ作ればいいじゃない。私レベルの子くらいいくらでもいるんだし、簡単でしょ」

「まぁ、そうだな。気が向いたらな」

「何それ」

「だって、面倒じゃん、そういうの。デートだけでも金使うし、機嫌も取ってやらなきゃいけないだろ? カノジョって」


あぁ、だからか。

ホテル代だけでよくて、楽して体を繋げるお手軽な存在だと、私は思われているわけなのか。


急に惨めになった。



「私は、瑛太みたいにめんどくさがらずに私を愛してくれるカレシ作るもん」

「おー。そうか、そうか。頑張れよー」


瑛太は寝返りを打って、宙に上げた手をひらひらとさせた。



ムカつく。

何なのよ、この態度は。


そんなに私に興味ない?



「帰る!」


叫んだ声は、だけども瑛太の大きなあくびによって掻き消された。

< 67 / 124 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop