伊坂商事株式会社~社内恋愛録~


「どうしたの? さっきから、ため息が18回目よ、マリちゃん」

「美紀さん……」


美紀さんは3つ上の先輩で、私が人事課に配属されて以来、お世話になりっぱなしっていうか。

お姉ちゃんみたいな人で、サバサバした性格で、私とは真逆って感じ。



「ねぇ、美紀さん。私そんなに魅力ないですか?」

「何? 突然。誰かに何か言われた?」

「いやぁ」

「あぁ、好きな人と上手く行ってないわけだ?」


どんぴしゃ、言い当てられて、私は思わず口を尖らせた。



「私レベルはいくらでもいるんですって。そりゃあ、確かにそうなんでしょうけど、でもひどいと思いません?」

「そうねぇ。まぁ、思ってても言っちゃいけないわね」

「ちょっと、美紀さんまで!」

「冗談よ、冗談。それにしても前途多難そうね。いっそ色仕掛けでもしてみたら?」


いえ、もうすべてをさらけ出してしまってます。

なんてことは、さすがに言えないわけで。


私は曖昧にしか笑えない。



「美紀さんくらい可愛かったら、そういうこともできるんでしょうけど。私なんて」

「卑屈になっちゃって。いいじゃないのよ、若いんだから。顔あげるから年齢と交換してほしいくらいよ、こっちは」

「私だって美紀さんの顔になりたいですよー」

「まぁ、顔や年齢でしか相手を判別できない男もどうかと思うけど」


美紀さんは、ふぅ、と息をつき、



「でもさ、まわりくどいことばかりしてないで、たまには直球で勝負してみたら? その方が相手に伝わる時もあるでしょ」


それは、美紀さんだから言えることだ。



私なんて。

『私なんて』しか言えない、私なんて。


好きだと瑛太に言ったところで、迷惑がられるだけじゃない。
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