伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
「秘密の相談だったら、俺も混ぜてよ」


はっとして顔を上げる。

と、そこには、営業課の有名人、宮根さんがいた。


私は委縮するが、美紀さんはケラケラと笑いながら、



「宮根さんには教えなーい」

「ふうん。いいけど。美紀ちゃん、最近ちょっと、俺に対してひどいよね」

「そうでもないですよ」


美紀さんはすごい。

こんな人を前にしても物怖じしないなんて。



「あ、そうだ。ついでだから、これ。この前の健康診断の結果なんですけど、営業課の課長さんに渡しておいてくださいね」

「俺を顎で使う気?」

「あら、宮根さんは私に顎で使われると思ってたんですか?」

「うわー。そういう言い方、莉衣子ちゃんにそっくりだ」


宮根さんは肩をすくめた。



「宮根さん。あんまり莉衣子をいじめないでくださいね」

「いじめてるなんて、ひどい認識の違いだね。愛情表現の一種だと言ってほしい」

「伝わらなきゃ意味ないでしょ」

「手厳しいねぇ、まったく」


またケラケラと笑う美紀さん。

宮根さんはいきなり私の方を向き、



「きみはこんな子になっちゃダメだよ」


整った顔に真っ直ぐ見据えられた。


あぁ、かっこいい。

雲の上から話し掛けられたみたいで、とてもお近づきになれた気はしないけど。



宮根さんの後ろ姿をぼうっと目で追っている私に、美紀さんは、



「ダメだよ、マリちゃん。あの人、私の親友以外はまるで眼中にないから」

「わ、私はそんなつもりじゃないですよ」
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