伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
あれから、何度か瑛太からメールがきたけれど、私は返信しなかった。
だからって、瑛太も瑛太で会議の前らしく、それ以上は何も言ってこなくて。
私は正直少し、あの日のことを後悔していた。
「あー、お腹痛い。今月、生理きつくてさぁ」
デスクでうな垂れる美紀さんに、私は、
「痛み止めありますよ。いりますか?」
「あ、ほんとにー? 助かるよー」
ポーチを開けて薬を取り出しながら、ふと卓上カレンダーが目に入った。
あれ?
そういえば私、今月、生理まだじゃない?
「マリちゃん?」
「え? あ、すいません。はい、どうぞ」
予定日より、一週間も遅れてる。
いや、でも、一週間くらいなら、ないことはないし。
だけど、この前、瑛太とナマでエッチしちゃったし、ってことは、“そういう可能性”もありえるわけで。
私は顔が青くなった。
まさかとは思うけど、子供ができてたとしたら。
「おーい。マリちゃーん?」
「あ、あぁ、えっと。ちょっとぼうっとしちゃって」
焦って言いながらも、私は心ここにあらずだった。
もしも子供ができてたとしても、めんどくさがりの瑛太に言える?
言ってどうなる?
私たちは別に付き合ってるわけじゃないんだし、それなのにいきなり子供ができたかもなんて。
ってこいうか、これは何かの間違いだ。
ちょっと待ってれば生理は必ずくるんだと、私は必死で自分に言い聞かせた。