伊坂商事株式会社~社内恋愛録~


終業時刻を過ぎても、私はデスクから動けなかった。


もちろん体調が悪いからというのもあるけれど、でも一番は、帰ったら真実を直視しなきゃいけなくから。

その勇気を出すことに、2時間かかった。



重い腰を上げ、帰り支度をして、エレベーターから降りた時、



「……あ」


向こうから歩いてくる宮根さんと目が合った。

まさか一日に二回も会うなんてと、私が思っていたら、



「あれ? 体調悪いんじゃなかったの? なのに、残業してたの?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」

「ダメじゃん、無理しちゃ。倒れたらどうするの」


私はもう、「すいません」としか言えないまま、委縮する。



その時、後ろのエレベーターのドアが開いた。

中から出てきたのが瑛太だったから、私はまた驚いた。


瑛太は宮根さんといる私を凝視している。



「送るよ」

「え?」

「送るって言ったの。知らない仲じゃないし、ここで別れて後できみに何かあっても困るでしょ」

「いや、そんな。そこまでしていただかなくても」


私はぶんぶんと首を振った。

でも、「いいから」と、宮根さんは私の腕を取る。


「わっ」と、私が焦って声を上げた瞬間、



「やめてください!」


別の腕が私の肩を引いた。

瑛太だった。



「嫌がってる子を無理やり送り狼しようだなんて、最低だな! あんたみたいなのが営業課のエースなんて信じられない!」
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