伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
肩で息をしながら言う瑛太。

宮根さんはひどく驚いた顔で、



「きみ、誰? っていうか、何かすごく誤解が含まれたことを言われた気がするんだけど」

「うるさい! 俺の女に触るな!」


びっくりした。

まさか瑛太が冗談でもこんなことを言うなんて思わなかったから。


宮根さんは首をかしげ、考えるように視線を彷徨わせた後、



「俺はただ、ここでこの子を放っておいたら、後で美紀ちゃんに怒られるし、そうなると莉衣子ちゃんにまで怒られると思っただけだったんだけど」

「……は?」

「きみ、この子のカレシなの? じゃあ、ちょうどいいや。きみがこの子を送ってあげなよ。昼からずっと青い顔してたんだから」


宮根さんは、「お大事に」と言い、どこかに行ってしまった。

私はわなわなと震えた。



「馬鹿! 瑛太の馬鹿! 何考えてんのよ!」

「いや、だって。マリが無理やりあの人に連れて行かれそうになってるのかと思ったら、つい」

「私のことなんてどうだっていいくせに!」

「はぁ? 俺そんなこと言ったことないだろ。マリが俺を避けてたんじゃないか」

「そりゃそうでしょ! 子供ができたかもしれないのに!」


と、言ってしまったところで、私は慌てて口をつぐんだが、時すでに遅く。

瑛太は「え?」と怪訝な顔になる。



「子供って、え? 何? どういうこと?」


私は諦めて息を吐いた。



「生理、もうずっと遅れてるの」

「何でそれを早く言わないんだよ!」

「だって、私たちは付き合ってないし、瑛太だって困ると思って」

「だからって、隠すことじゃないだろ! この、馬鹿!」


私はびくりとした。

瑛太が本気で怒った顔なんて初めてだった。

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