伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
「何? 仕事? それとも、本橋ちゃんとのこと?」

「後者が8割ってところかな」

「上手く行ってないの?」


俺は答えず、代わりに肩をすくめて見せた。

しのちゃんは少し考えるように宙を見た後、



「私、宮根が恋愛で悩んでる姿、初めて見たかもしれない」


真顔で言われた。

俺はまた苦笑いする。



「昔の俺からは想像できないでしょ」

「そうね。あの頃、あんたは破滅の道に進むんだとばかり思って見てたわ、私」

「まぁ、人生初の真面目な恋だからね。俺だってそりゃあ、悩むでしょ」

「頑張れ、宮根」


アドバイスをするでもなく、しのちゃんは無責任にも聞こえることを言いながら、俺の頭をよしよしした。

しのちゃんから見れば、俺は心配をかけまくる可愛い弟なのだろうなと思う。



「自分はどうなんだよ。新部署の室長に内定したって聞いたけど」

「地獄耳ね。その話はまだトップシークレット扱いなのに」

「ますますの出世じゃない。4年前の二の舞になっても知らないよ」

「そうね」


しのちゃんは多くを語らず、ただ笑う。


山辺さんとの時は、いつも泣きながら電話してきてたくせに、なのに相手が変わればこうも変わるものらしい。

俺は少し、それを羨ましくも思った。



「いいね。幸せそうな顔しちゃって」

「腑抜けたこと言ってんじゃないわよ。宮根のくせに。らしくない」

「そうだね」


背中を叩かれ、ちょっとだけ気合いをもらった。


しのちゃんは、俺にとっては唯一無二の戦友で。

いつもこうやって互いに励まし合っては、それを明日への糧にする。

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