伊坂商事株式会社~社内恋愛録~


うちの営業課は、本当につまらない。


俺に張り合えるようなやつはひとりもいないし、それどころか、何かあればすぐにみんなして俺に頼ってくる始末。

だからなのか、誰も俺に意見すらしてくれず、逆に俺の顔色をうかがうばかり。



「宮根さん! ハンコくださいって何度も言ってるじゃないですか!」


そんな中にあって、莉衣子ちゃんだけが、俺をまともに扱ってくれる。



「ハンコ押すだけでしょ! 早くしてくださいよ!」

「えー?」

「もう、ほんと宮根さんなんて嫌い!」


わめく莉衣子ちゃん。


俺は笑う。

こういうのが、おもしろくてたまらない。



「課長ー。莉衣子ちゃんが俺にひどいこと言いましたー。俺もう仕事する気なくなったので、会社辞めまーす」

「なっ」

「おい、宮根!」


途端に莉衣子ちゃんと課長は焦り出す。



「本橋! お前はどうしていつもいつも、宮根の機嫌を損なわすんだ!」

「わ、私が悪いんですか?! ハンコ押してくれない宮根さんを怒ってくださいよ!」

「宮根に謝れ! これは課長命令だ!」

「そんなぁ」


泣きそうな顔になる莉衣子ちゃん。


前に、美紀ちゃんから、「営業課は幼稚園みたいだ」と揶揄されたことがあるけど。

まさにその通りだと、事を起こしている張本人の俺が思う。



「すいませんでした、宮根さん。私は宮根さんのことが大好きです。なので、ハンコください」


莉衣子ちゃんは口をへの字に曲げ、棒読みで言う。

俺は「合格」と笑い、書類にハンコを押してあげた。


帰ったら莉衣子ちゃんはまた涙目で怒るんだろうけど、それすら可愛いから、気にしない。

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