伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
「何だか不思議だよね。宮根くんと俺がこうやって話してるの」

「そうですね」

「あの頃の俺は、正直少し、きみに嫉妬してた」


何の暴露だ。

俺は気まずさに耐え兼ね、受け取ったコーヒーに口をつけた。



「亜里沙と上手く行かなくなり始めて、きみたちの仲を疑ったこともある」

「俺としのちゃんは、昔から、今でもずっと、誰かに疑いの目を向けられるような関係じゃない。それこそ心外だ」

「そうだよね。頭では俺もわかっていたんだけどね。どうにも、感情がついていかなかった。俺も若かったのかもしれないけど」

「あんたは上手く行かなかったことを俺の所為にしたいだけじゃないの?」


核心を突く俺に、山辺さんは苦笑いを向け、



「俺と亜里沙は、何が悪かったんだろうね」

「あんたらは、お互いに、相手が悪かった。それだけでしょ」

「身も蓋もないことを」

「終わった恋愛なんて全部その一言で片付きますよ。それなのに、そんなことを4年も引きずってるあんたの未練がましさは、俺から見ればかなりきもい」

「……『きもい』って」

「だってそうでしょ。その所為でしのちゃんまで4年も眠り姫みたいになってたんだ。だから今度邪魔したら、俺はあんたを許しませんよ」

「怖いなぁ、まったく」


山辺さんは肩をすくめ、コーヒーの缶をくいと傾けた。


自動販売機のモーター音だけが響く、静かな休憩スペース。

山辺さんは少しの沈黙を残した後、



「心配しなくても、俺はもう二度も振られてるんだ。さすがにストーカーになる気はないから」


やっぱり苦笑い。

山辺さんは改めて俺に目を向ける。



「きみは? 本橋さんだっけ? 噂はいたるところで聞くけど」

「莉衣子ちゃんはあげませんよ」

「そういう意味じゃなくて。意外だなと思っただけだよ」
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