伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
「何が言いたいんですか?」


思わず棘のある言い方で返してしまう。

山辺さんは「そう怒らないでよ」と言いながら、



「昔のきみの話は色々と聞いてる。女性は手当たり次第で、仕事だって体を使って取っていたこともあったらしじゃない」

「………」

「なのに、そういうきみを更正させた子がいるなんて、すごいなと思ったんだ」


脳裏をよぎる過去の数々。

俺はそれを振り払い、



「そういうことをして取った契約書類を、莉衣子ちゃんに処理させたくなかっただけです。それなら契約を取れない方がマシだ」

「………」

「結果、気力と労力を使いまくって残業三昧。経費を認めてくれない倉持さんの所為で身銭まで切ってる。それでも、莉衣子ちゃんに嫌われるよりはいい」

「………」

「俺はあの子に出会って救われたんです。どこがとか何がとかじゃない。理由なんて言葉にしても陳腐なだけだ。それをあんたに言う気もないけど」

「………」

「っていうか、莉衣子ちゃんの魅力は俺だけが知ってればいいんです。昔がどうだったとか、あんたにいちいち口を出されることじゃない」


言い切った俺に、山辺さんはただ一言、「すごいね」と言った。



「まぁ、山辺さんにはわからないでしょうね。あんたはしのちゃんの気持ちより自分の体裁を取った人だもん」

「失礼な。と、言いたいところだけど、返す言葉もないよ」

「俺、沖野さんっていう人と、あんまり話したことないからよく知らないけど。でも、あの人とあんたの違いは、そういうところにあるんじゃないの?」

「………」

「大体あんたさぁ、外面を気にしすぎなんだよ。いっつも爽やかぶっちゃって。だから大事な時にまでその仮面を外せなくなって相手を傷つける結果になるんでしょ」


山辺さんの笑みが少し引き攣る。

そしてぼそりと「ムカつく」と吐き捨てた。



「否定はしない。と、いうか、きみの言ってることは多分正しい。だけど、きみは少し、社会人としての物言いを覚えた方がいい」

「それ関係ないでしょ」
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