伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
「年下のくせに偉そうに」

「うるさい。だったら話し掛けてくんなよ、クソジジイ」


俺はベンチから立ち上がった。



「じゃあね、山辺さん。俺まだ仕事残ってるし。あ、コーヒーごちそうさまぁ」


手をひらひらとさせる。

むすっとする山辺さんを見て、俺は笑いながら、フロアに戻った。


そのタイミングで、俺の携帯が鳴る。



「宮根ー。今いつものところで飲んでるんだけど、あんたもおいでよー」


のん気だな、しのちゃん。

誰の所為で余計疲れたと思ってるのか。



「酔ってるの? 嫌味だね。こっちはまだ仕事中だっていうのに」

「うっそ。ごめーん」

「いいけど。っていうか、俺なんか呼んだら、カレシに勘違いされちゃわない?」

「えー? だって、沖野くんが『あんたもうめんどくさいから宮根さんと飲んでなさいよ』とか言うからさぁ」

「何それ」


俺は思わず声を立てて笑ってしまった。

どこかの未練がましいクソジジイとは大違いだ。



「ついに振られたんだ? しのちゃんは酔っ払うとほんと面倒だからね」

「失礼な。沖野くんなら隣にいますぅ。電話、代わろうか?」


いやいや、話すことないし。

と、俺が思った言葉がそのまま、電話口の向こうからも聞こえてきたから、俺はまた笑ってしまった。



「いいよ。じゃあ、仕事は適当に切り上げて、俺もそっちに行くわ」

「あ、やっぱり来なくていいや。あんた本橋ちゃんのところに行ってあげなさいよ。仲よくね。ばいばーい」


ぶつりと電話が切れた。


一体、何だったんだ。

俺は茫然と携帯を見つめ、でもあまりのおかしさに噴き出した。

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