伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
好きになった人は、いつの間にか親友のカレシになっていた。
まぁ、ありがちではあるのかもしれないけど。
別に今は何とも思ってないし、むしろ莉衣子を応援しているよ、そりゃあ。
っていうか、宮根さんが莉衣子を好きだって気付いた時点で、私はさっさと身を引いたのだし。
でも、人生ってつくづく上手く行かないなと思う。
「聞いてくださいよ、美紀さん! 瑛太、ひどいんですよ! 昨日も映画に行って寝ちゃうし、それを怒ったら喧嘩になるし!」
隣の席の後輩ちゃんは、毎日毎日、ノロケてくる。
頭の中は恋愛一色って感じ。
ちょっと羨ましくて、でも本音を言えば、少しうざい。
多分、私が枯れた女だから、ひがみ根性がそういう思考を生むのだろうけど。
さすがにそろそろやばいのかもしれないなと、自分でも思う。
「北澤。ちょっとこい」
「はい」
「これ、今日中に。あと、こっちは間違ってたから赤線のところを全部直せ。もちろん今日中にだぞ」
「はい」
死ね、クソ野郎。
私は阿部課長に心の中で吐き捨てる。
「うっわー。美紀さん、その量やばくないですか? 手伝いましょうか?」
「大丈夫。マリちゃんはそれ終わらせたら上がりなよ。私のことより、カレシと早く仲直りしたいでしょ?」
「えっと、すいません」
「いいの、いいの。どうせ私は予定ないし。マリちゃんの幸せの方が大事でしょ」
あぁ、今の私、いい先輩っぽいな。
別に後輩ちゃんによく思われようとしてるわけでもないけれど。
こんな程度のことをひとりで解決できないなら、私は阿部課長に負けたも同然なのだから。