伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
あぁ、死にそう。
今日も残業で、やっと地元の駅に辿り着いた時には、夜10時を過ぎていた。
さすがに立ったまま寝られそうだった。
ふらふらしながら駅前のコンビニに足を向けたら、
「……美紀ちゃん?」
背後から呼ばれて顔を向ける。
まさかの私服の山辺さん。
「うっそー。何で山辺さんがここに?」
「俺あそこのマンションなんだけど。美紀ちゃんこそどうしたの?」
「うちはここから徒歩10分」
知らなかった。
山辺さんと同じ駅を利用してて、しかもこんなに家が近いなんて。
「朝、会わないよね?」
「俺は7時前後の電車に乗ってるから」
「すごいね。そりゃあ、会わないわけだ」
「それより、美紀ちゃん。まさか会社帰りとか言わないよね?」
「そのまさかでーす」
「嘘だろ? 人事課ってそんなに残業が必要?」
「色々あるのよ、私も」
肩をすくめた。
「あ、そうだ。山辺さん今、暇?」
「うん?」
「ここで会ったのも何かの縁だし、飲みに行かない? 付き合ってよー」
疲れ過ぎてて、すべてがどうでもよく思えた。
もうやってられないって感じ。
「いいけど。大丈夫? 顔色悪いよ?」
「大丈夫じゃないから飲みたいのぉ。もう家でひとり酒も飽き飽きだしさぁ」