パブロフの唇
「俺ばっかり見て、どした?」
「! あ、いえ」


二人きりの休憩室。上平さんを窺い見ていたら気付かれた。
顔を覗き込まれて焦る。
脳内で指を犯してましたなんて、言えない。


「これが気になる? いつもここ、見てる」


私を魅惑してやまない右手が、至近距離で振られた。


「ラグビーやってた時に、何度か骨折してこうなったんだけど。気持ち悪い?」
「まさか。綺麗です……、すごく」


こんなに間近で見たのは初めてだった。
想像ばかりを含まされてきた口内が反応する。
ごくりと唾を飲んだ。


「すごく、食べたくなる」


口を滑らせたことに気付いたのは、彼の唖然とした顔を見てからだった。
上手い言葉も出てこず、顔が真っ赤になるのを自覚しながら、ただ見つめ返した。




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