【密フェチ】切ない指先
「久しぶり……」
足が自然と彼の方へ向かい、私は彼にそう声をかけた。
「あぁ。元気だったか?」
「うん」
他愛もない会話が新鮮に感じる。
聞きたいことが沢山あるのに、何から聞いていいのかわからない。
無言のまま時間だけが過ぎていく。
ジーンズのポケットから彼が手を出した。
彼の手に目がいく。
今も変わらない綺麗な手……だけど……。
彼の手を見たまま体が硬直した。
彼の左手の薬指に輝くリング。
それが意味するもの……。
「結婚、したの?」
「あぁ」
「おめでとう……」
泣きそうになる気持ちをグッと堪え、笑顔でそう言った。
駅に電車が着いた。
「実家に帰ってた嫁さんを迎えに来たんだ。じゃあ」
彼はそう言って、駅の中に入って行った。
と、同時に灰色の空からポツポツと雨が降りだした。
まるで私の気持ちを表しているかのような冷たく切ない雨が――……。